今年は国内でもYahoo!やDeNAなど大手企業がゲノム(遺伝子)解析サービスに参入し、話題になっています。
最近では昨年、国連の親善大使などをつとめ社会活動家として知られている、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳がんの遺伝子検査を受け、予防のため乳腺除去手術に踏み切ったことを表明し、「遺伝子(ゲノム)検査」が注目されました。
今回、ちょうどYahoo!ヘルスケアの「Health Data Lab」でも5,000名の無料先行モニター第2弾ということで募集中(9/1まで)ということもあり、興味もあったのでサービス申込を検討するにあたり、ざっと調べてみました。
ゲノム(遺伝子)解析サービスとは?
◆一般向けゲノム解析サービスとは
自宅にいながらにして、検査キットで採取される唾液から個人の遺伝子を解析し、病気のリスクや体質などを割り出すサービス。
2型糖尿病、脳卒中、腎臓病などの生活習慣病や、肥満・不眠症などの病気、尿酸値・飲酒量などの体質を含む、様々な項目を解析する。
また肥満遺伝子や肌老化遺伝子検査、骨粗しょう症、アルコール代謝関連、メタボ遺伝子など、特定の遺伝子だけを検査するサービスもあり、数多くの事業者がキットを販売しており、Amazonなどのネット販売で手軽に購入することができる。
※こちらの簡単なパンフレットを参考までにご紹介します。
遺伝子検査とは何ですか?(PDF)
遺伝子検査についてよく聞かれる質問(PDF)
◆ゲノム解析サービス提供会社(国内)
国内の一般向け遺伝子検査サービスでは、Yahoo!ヘルスケアで提供している「GeneLife」(ジェネシスヘルスケア株式会社)、東京大学発のバイオベンチャーの「Genequest」、DeNAの「MYCODE(マイコード)」などがあり、対象とする遺伝子、検査項目数、価格も様々。※別途UPDATE予定
◆ゲノム解析サービス提供会社と料金・診断でわかること
例えば、Yahoo! Healh Data Labでの解析項目リストはこちらからご覧になれます。モニター解析では約120項目となっています。
「HealthData Labo」では、2型糖尿病・脳卒中・腎臓病などの生活習慣病や、肥満・不眠症などの病気、尿酸値・飲酒量などの体質を含めた約300項目をゲノム解析することが可能で、解析項目には祖先解析も含まれています。
6月に第1弾として5000名を募集したところ、応募モニターの属性は男性が63%・女性が37%で、年代は30代・40代の応募が大半を占め、健康を意識し始める年代の特に男性からの関心が高いようです。
尚、経済産業省が「遺伝子検査事業者選定チェックリスト」を公開していますので、ゲノム解析サービスを検討する段階でこちらを参考に事業者選定をすることをおすすめします。
遺伝子検査を受けたいと考えている皆様にお知らせします!(経済産業省:PDF)
ゲノム解析サービスのメリット
遺伝子検査により、遺伝子疾患が正しく診断されるのであれば、早期に適切な対応が可能になります。
将来、特定の遺伝子疾患(例えば乳癌など)を発症するリスクが高いことが分かった場合、定期的な検診を頻繁に受けることで、リスクを最小限にすることができるかもしれません。
また検査が良い結果であれば心配からの解放感を得ることができるかもしれません。
ゲノム解析サービスの課題とリスク
メリットの裏返しにもなりますが、現時点では以下のような課題とリスクが想定されます。
①自分だけではなく、親・兄弟・血縁関係にまで影響を及ぼす可能性がある。
遺伝子の変異は親兄弟や血縁にあたる人たちまで関係します。
仮に親が遺伝子をもっていれば、子どもに遺伝する確率は50%であり、血縁関係の中に遺伝している可能性を示すことになります。
ちょっととした興味本位で、病気になるかどうかを知りたいと思ったことがきっかけになり、遺伝子検査を受けたところ、それ以上に社会生活にも影響する可能性もあります。
②検査結果による精神的な苦痛・不安
遺伝子検査には糖尿病などになりやすい遺伝子を調べることで、陽性になった場合、食生活変えて予防することができます。その意味ではメリットがあります。
しかし一方で、現時点で治療法や予防法が確立されていない病気の検査(例:早期アルツハイマー型痴ほう症など)もあり、仮に陽性判定がでた場合、親や血縁関係にある人が発症した時に、自分にも遺伝しているのではないかとすごく不安になりかねません。それは過度な心配を引き起こし、精神的な苦痛となってしまう可能性もあります。
その意味でも、WEBだけで完結するサービスではなく、遺伝カウンセラーによるメンタルケアも一体になったサービス提供が望ましいのではないかと思います。
③遺伝子解析は発展途上、すべての病気を正しく解析し、的確な予防法や治療法があるわけではない。
・がんや生活習慣病などは、遺伝子と食生活などの多くの因子が影響しあって引き起こされる「多因子疾患」で、遺伝子だけでリスク判断するのは人種によっても異なり、未解明な点が多い。
・欧米人のサンプルデータは豊富にあるものの、アジア人では韓国や香港は充実しているが、特に日本人データ少ないのが現状。例えば乳がんの場合は130家系程度(2013年8月時点)。
・遺伝子研究はまだ初期のステージで、ヒトゲノム解析で明らかにできた病気の遺伝的要因は10%程度で、90%は謎のまま解明されていません。
従って私のように遺伝子検査の結果、すべての病気の発症を予測し、予防、治療することを期待するためには、まだまだこの先相当な時間がかかるということになります。
・それゆえ、研究が今後進めば検査結果の評価が変わる可能性があり、実際、サービス提供会社の説明には、「研究が進展すると、検査結果の評価が変わる可能性があります」との一文が加えられている。
・検査を行う企業によって評価が異なる可能性がある。
・現時点では「医療行為に踏み込まないサービス」。
④倫理的課題(対応方法、告知)
・仮に重大な病気のリスクが研究進化の段階で判明した場合、どのように対応するべきか、告知するべきかどうかなどの倫理的な議論は国内ではまだされていない。
⑤最高レベルの個人情報故、データ流出や不正アクセスのリスクも
・いうまでもなく、遺伝子は最高レベルの個人情報であるため、WEB(Yahoo!ヘルスケアの場合はID/PW;ワンタイムパスワード推奨)で完結するサービスは万が一の時、セキュリティ面での不安が大いに残る。
検討結果、無料モニター応募は見送ることに
以上、いろいろ調べた結果、現時点では私は「メリットよりも課題・リスクが大きく、予防医療には役立たない」と判断し、今回のサービスには申込まないことにしました。
検査実施側にとっては、おそらく日本人のデータがまだまだ少ないこともあり、無料でサービスを提供してでも欲しい、サンプルを集めている初期ステージです。
実際には私たちは貴重な個人情報を提供することになるので、タダほど怖いものはないといったところでしょうか。
無料ということだけで早まった判断をすることなく、まずご自身の中で検査することで得られるメリットとリスク、現時点での遺伝子(ゲノム)解析の状況を理解した上で、十分検討・納得して判断することが大切だと思います。
【参考】
遺伝子検査とは何ですか?(PDF)
遺伝子検査についてよく聞かれる質問(PDF)
遺伝子検査所では、何が行われているのですか?(PDF)
遺伝子検査を受けたいと考えている皆様にお知らせします!(経済産業省:PDF)
NHK解説委員室:時事公論「遺伝子検査と私たちの未来」 (NHK)
DNA研究の最前線 (Yahoo!ヘルスケア)