人生の1/3を占める「睡眠」。
残り2/3を快活に過ごせるかどうかを決めるのも睡眠のとり方ひとつで変わってきます。
日本人は最近の調査によると、平均睡眠時間は6.5時間と他の国々の人と比べても睡眠時間が少ない民族だそう。
アメリカが7.5時間、フランスが8.7時間なのでかなり低い水準であることがわかります。
しかも6時間未満の人が日本人の約40%近くもいるという事実からも、睡眠不足症候群が多い国なのです。
また、NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査(5年周期刊)」によると、国内有職者の平均睡眠時間は1995年で7時間15分であったのが、2015年には6時間56分とこの10年間で約20分も減っていることがわかります。
※総務省「社会生活基本調査」では15歳以上の平均睡眠時間は1976年で8時間01分で、ソースは異なるもののこの40年で約1時間も睡眠時間が減少していることは驚きです。
確かに私も平均5~6時間程度で、夜中に目覚めることもしばしば。
特に仕事が多忙で緊張状態になると、常に脳が活性化されている状態になっていることもあるので、常に熟睡するための術については個人的にも強い関心がありました。
また最近では、「睡眠負債」という言葉も広く知られるようになってきました。
日々の睡眠が不足することによって心身ともに深刻なマイナス要因が積み重なっていく状態のことですが、最近の研究結果ではマイクロスリープ(瞬間的居眠り)の誘発だけではなく、肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病やアルツハイマー型認知症にもかかりやすくなることがわかっています。
最新の研究結果によると、睡眠時間が短いと病気のリスクがあがるということが判明している。
・7時間未満は認知症のリスクが約1.6倍
・5時間未満はかぜのリスクが約4.5倍
・6時間以下は乳がんのリスクが約1.7倍
・5時間以下は糖尿病のリスクが約2倍
また、睡眠時間が短いと肥満度が高いという研究結果も出ている。
ということもあり、書店でも並ぶことが多い「睡眠」をキーワードとしたベストセラーの中から、ここのところ気なったタイトルの新作本をいくつか読みあさっていました。
確かに読んでみるとなるほど納得、確かにそうだよねといった習慣だったりするのですが、改めて「質のいい睡眠」が大切だと認識し、生活習慣を見直すよいきっかけとなりました。
今回読んだ「スタンフォード式最高の睡眠」では、睡眠に至るまでのプロセスの中に「質のいい睡眠」をとるためのヒントが隠されています。
最高の覚醒で朝を迎え、日中のパフォーマンスをあげるために効果的な「最高の睡眠」を得るためのプロセスとはいかに?
睡眠の質を上げる、「スタンフォード式 最高の睡眠」とは
著者の西野誠治さんは寝具のエアウィーヴの研究開発にも関わった医学博士でメディアにも多数露出されている方なので、名前を聞いた方もいるかもしれません。
睡眠関連の書籍はたくさんありますが、日々研究が進められている分野なので常に新しい情報にアンテナをはって、西野さんのように最先端で研究されている方のメソッドを理解しておくことは有意義です。
以前紹介した作業療法士の菅原洋平さんの著書「あなたの人生を変える睡眠の法則」では、4-6-11の法則に従って目覚めてからの行動を行うことでよりよい睡眠をもたらすものだとして効果的なメソッドが紹介されていました。
一方で、この「スタンフォード式最高の睡眠」はどちらかというと最高の状態で目覚めるためには、睡眠の質が高めることが必要で、質のいい睡眠をとるためには入眠時の最初の90分(黄金の90分)が大切だということにフォーカスしています。
「90分の黄金法則」をベースに、深い眠りにつくためのメソッドについて紙面の大半を割いて解説しています。
一般的に人間の眠りには「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類があり、それを繰り返しながら眠っていることは知られています。
ちなみに、レム睡眠とは脳が起きていて体が眠っている睡眠状態で、ノンレム睡眠は脳も体も眠っている睡眠状態のことです。
西野先生によると、入眠後に最初に訪れるノンレム睡眠(90分間)は睡眠の中で最も深い眠りであり、この最初のノンレム睡眠をいかに深くすることが「睡眠の質」を高めるポイントになるとのこと。
ここで深く眠りにはいることができれば、その後の睡眠リズムが整い、自律神経やホルモンの働きがよくなった結果、最高の覚醒をもって翌日のパフォーマンスが上がるという術です。
どちらの本も結果的には睡眠の質を高めるためのプロセスとしてそれぞれが繋がるヒントが紹介されているので、4-6-11の法則と組みあわせて、黄金の90分を活かす質の高い睡眠について実践するとちょうどよいのではないでしょうか?
まさに「4-6-11」と「90分の黄金法則」を掛け合わせることで、現時点で最強の睡眠メソッドを手に入れることができるのです。
質のいい睡眠をとるための「90分の黄金法則」とは
「最高の睡眠」とは、「脳・体・精神」を最高のコンディションに整える、「究極的に質が高まった睡眠」のこと。
「脳・体・精神」を最高のコンディションに整える質の良い睡眠をとれば、仕事でも勉強でもパフォーマンスの高い1日が送れるのです。
睡眠の量ではなく、質を高めることがキーポイントです。
睡眠の質を高めることで、結果的に「最強の覚醒」を作り出すことができ、日々の生活を最高のコンディションで送ることができます。
その意味で、睡眠と覚醒(パフォーマンス)はセットと考えられています。
それでは、質のいい睡眠をとるための鍵は何なのか?
西野先生によれば、「90分の黄金法則」こそ、質のいい睡眠をとるためのカギであり、レム・ノンレムの周期に関わらず、睡眠の質は眠り初めの90分で決まる!とのこと。
どんなに忙しくても「最初の黄金の90分」さえしっかり深く眠ることができれば、最高の睡眠をとれるというのがスタンフォード式最高の睡眠です。
それでは、「最初の黄金の90分」を深く眠るための、質のいい睡眠をとるための方法は何なのでしょうか?
「最初の黄金の90分」を深めるコツ、その答えは「体温のスイッチ」と「脳のスイッチ」の2種類のスイッチが鍵となります。
「体温のスイッチ」をオン・オフ
「黄金の90分」を深めるためには、「体温」と「脳」という2つのスイッチをいれることが大切です。
まず体温については、1日を通してメリハリをつけることを意識することがポイントです。
1日の体温スイッチのオン・オフの流れは以下の通り。
日中は体温をあげてパフォーマンスをあげ(スイッチオン)、入眠するときは皮膚温度をあげて(スイッチオン)熱を放散すると深部体温が下がり(スイッチオフ)、「黄金の90分」では体温をさげて(スイッチオフ)眠りの質を上げる。
そして、朝近づくにつれて体温が上昇(スイッチオン)して覚醒する。
この体温のメリハリを意識することで、「黄金の90分」はより深くなって、朝の目覚めがすっきりして、日中のパフォーマンスがあがることにつながります。
それでは体温のスイッチをコントロールするためにはどのようにすればよいのでしょうか?
就寝90分前の入浴がオススメ
体温のスイッチのオン・オフをするための具体的な方法としてオススメなのが、就寝90分前の入浴です。
皮膚温度(手足の温度)と深部体温(体の内部の体温)の差を縮めることで入眠しやすくなります。
40℃のお風呂に15分ほどはいること。
入浴による皮膚温度変化はせいぜい0.8~1.2℃程度です。
深部体温は上がった(0.5℃程度)分だけ、大きく下がろうとするので、入浴によって意図的に深部体温をあげれば、入眠時に必要な深部体温の下降がより大きくなるため、熟眠につながります。
体温を上げて下げることが良質な睡眠には欠かせない要素となります。
一般的に入浴により0.5℃上昇した深部体温が元に戻るまで90分ほどかかります。
つまり、寝る90分前に入浴を済ませておけば、その後さらに深部体温が下がっていき、皮膚温度との差が縮まって、スムーズに入眠できるというロジックなのです。
例えば0時に就寝する場合は以下のタイムスケジュールで入浴し、入眠すると効果的です。
・22:00 入浴15分
・22:30 入浴終了、熱放射スタート
・ 0:00 90分後、熱放射により深部体温はもとに戻り、さらに下がり始める。
このタイミングでベッドにはいった状態でいること
・ 0:10 入眠
もちろん入浴ではなく、運動で体温をあげる方法もありますが、過度な運動は交感神経が刺激されるためNGです。
入眠前は軽い運動ですませると適切な体温上昇には効果的です。
寝る直前はシャワーか足湯がオススメ
ただ、忙しくて寝る90分前にお風呂なんてゆっくりはいれない方もいるはず。
寝る直前であれば、深部体温があがりすぎないように、ぬるい入浴かシャワーが効果的です。
さらに時間がない場合はシャワーよりも効果的な「足湯」がおすすめ。
足湯で足の血行をよくして熱放射を促せば、入浴と同等の効果があります。
入浴は深部体温をあげてさげるアプローチのため時間がかかりますが、足湯は体温上昇は大きくないものの、熱放射効果により、深部体温を下げることができる方法です。
その意味でも、足湯は忙しいビジネスパーソンにむいた深部体温をさげる効率的なアプローチだといえます。
体温効果をあげる室温コンディション
質の高い睡眠を促す、体温に影響を与える要素として、温度や湿度といった室温コンディションを整えることも大切です。
例えば、湿度が高いと発汗しなくなり、手足からの熱放射も妨げられて、眠りが阻害されてしまう要因となります。
エアコンのお休みタイマーモードの活用や、通気性のよい枕(そば殻を使った枕など)で頭を冷やすのも効果的。
私は夏場にかったニトリのNクールの枕カバーを使って、頭を冷やしています。
昔から伝わるキャベツを頭にかぶって冷やすとよいということにも通じますね。
「脳のスイッチ」をオン・オフ
次は「脳のスイッチ」の入れ方について。
脳のスイッチをいれるためには、睡眠パターンをつくり習慣づけることが大切です。
いつものベッドでいつもの時間にいつものパジャマでいつもの照明と温度で寝るようにする。
いわゆる「睡眠のルーティン化」をつくり、習慣化することで脳が睡眠モードに切り替わることを促すのです。
早寝はせず、いつもの時間通りに寝て、入眠定時を脳にセットさせることで、結果的に質のいい睡眠のための「黄金の90分」がパターン化されるのです。
この際の注意点としては、寝床にはいったらあくまでも受動的な状況が不可欠のため、交感神経を刺激するような寝る前の激しい運動やスマホ使用は厳禁です。
最高のつくりだすための起きてからの行動習慣とは
体温と脳のスイッチを上手く切り替えることで、「黄金の90分」で質のいい睡眠についたら、次に大切なのは「覚醒のスイッチ」です。
質のいい睡眠(最高の睡眠)は最高の覚醒と表裏一体の関係で、良い覚醒はよい睡眠を導き、良い睡眠は良い覚醒をもたらします。
※このあたりのプロセスはぶっちゃけ、「あなたの人生を変える睡眠の法則」で紹介されていた4-6-11の法則とかぶる部分があり、朝起きてからどのように行動すればよいのか、時間軸にあわせてわかりやすく解説しているのでそちらがオススメです。
2つの「覚醒のスイッチ」をオンする
熟睡をもたらす「スタンフォード式覚醒戦略」では、代表的な2つの覚醒スイッチをオンすることで覚醒と睡眠の良い循環をつくりだすきっかけを作り出しています。
そのきっかけとなるのが、「光」と「体温」という2つの「覚醒のスイッチ」です。
朝起きてから夜寝るまでどんな行動をすればよいのか、最高の睡眠をつくりだすための行動習慣として、この2つのスイッチを効果的に使います。
覚醒スイッチ①光
まず、光の覚醒スイッチ。
人間はおよそ「24.2時間」のサーカディアンリズム(概日リズム)で動いていて、光の刺激を受けることで脳が活性化するというものです。
朝起きたら、まず窓をあけて朝の太陽の光を浴びる習慣をつけること。
雨天でも曇天でもたとえ太陽がみえなくても、数分程度の時間でいいので、窓辺で朝の光を浴びることで、体内リズムや覚醒に影響を与える光の成分が脳に行き届きます。
もちろん朝の通勤で浴びる光でもよく、カーテンを閉めたままにせず、朝の太陽の光を必ず浴びるようにする習慣をつけましょう。
覚醒スイッチ②体温
そして、体温の覚醒スイッチ。
体温はサーカディアンリズム(概日リズム)の影響を最も受けているため、気を払うこと。
覚醒時にはしっかりと体温をあげてスイッチをオンにすることが、良い目覚めには欠かせません。
光と体温のスイッチを意識して取り入れることで、そのあとのより質のいい睡眠、「黄金の90分」につながるのです。
本書ではこれら2つの覚醒スイッチ以外にも覚醒スイッチを押すための行動習慣が紹介されていますが、ここでは項目だけ列挙しておきます。
興味のある方は本書をご確認ください。
覚醒戦略①アラームは「2つの時間」でセットする
→ 起床のウィンドウ(20分程度)をつくる。1度目は微音短くセットする。
スヌーズ機能は使わない。
覚醒戦略②「眠りへの誘惑物質」を断捨離する
→ 起きたらすぐ動いて太陽の光を浴びるべし。
覚醒戦略③「裸足朝活」で覚醒ステージをあげる
→ 起きたら裸足で冷たい床にのるべし。
覚醒戦略④「ハンドウォッシュ」メソッドで目を覚ます
→ 起きたら冷水で手を洗うべし。朝風呂ではなく、朝シャワーがオススメ。
覚醒戦略⑤「咀嚼力」で眠りと記憶を強化する
→ 朝食は必ずとるべし。
覚醒戦略⑥とにかく「汗だく」を避ける
→ 早足のウォーキングなど、軽い運動をするべし。
覚醒戦略⑦「テイクアウト・コーヒー」で「カフェイン以上」を取り込む
→ テイクアウトでコーヒーをのむべし。
覚醒戦略⑧「大事なこと」をする時間を変える
→ 頭をつかう重要なことは午前中にするべし。
覚醒戦略⑨「夕食抜き生活」は眠りに響く
→ 夕食は抜くべからず。
覚醒戦略⑩「夜の冷やしトマト」で睡眠力アップ!
→ 夜にトマトやキュウリジュースで深部体温を下げる。
覚醒戦略⑪「金の眠り」になる酒を飲む
→ 少量の飲酒(日本酒換算で1~1.5合)で寝つきがよくなる。
スタンフォード式最高の睡眠まとめ
以上、「スタンフォード式最高の睡眠」から最新の睡眠メソッドをご紹介しました。
質のいい睡眠についてポイントをまとめると以下の3つ。
◆十分な睡眠時間(できれば7時間以上)のまとまった睡眠時間を確保する
◆眠り初めの90分(黄金の90分)を深い眠りにすることで質の高い睡眠を得られる
◆質のいい睡眠にするためには、「体温」と「脳」の2つのスイッチをうまく活用する
そして、「あなたの人生を変える睡眠の法則」にある4-6-11の法則をあわせて考慮した結果、得られる日常の行動習慣としては
◆朝:起床から4時間以内に太陽の光を浴びて、手足を冷やす
◆昼:起床から6時間後に5分程度のマイクロスリープをとる(目を閉じるだけでもOK)
◆夕:起床から11時間後に軽い運動をおこなう(散歩やストレッチなど)
◆夜:寝る90分前に入浴する(無理ならばシャワーや足湯がオススメ)
を意識するようにすると、質のいい睡眠につながるのでよいということになります。
睡眠時間を増やせなくても、睡眠の質をあげることはできる
最近では働き方改革が叫ばれていますが、日本人の労働時間は他諸外国と比較しても、まだまだ長時間労働大国です。
忙しくて十分に睡眠時間がとれない状況にあっても、入眠に至るプロセスを見直し、少し工夫を加えることで睡眠の質をあげることは可能です。
入眠して最初の「黄金の90分」で深く眠り、しっかり脳と体を休ませることができれば、すっきりした朝をむかえることができ、昼間の眠気も軽減することができます。
結局のところ、たくさん睡眠をとったところで、最高の睡眠は得られません。
睡眠の悩みやストレスは「量」の確保では解決できず、「質」の確保によってより良く改善できるのです。
最高の睡眠と最高の覚醒につながる、体温のスイッチ、脳のスイッチ、そして覚醒のスイッチ(光・体温)。
日中のパフォーマンスをあげるために、これらのスイッチを日常生活で意識しながら取り入れてみてはいかがでしょうか?
世界一の睡眠研究所で生まれた「スタンフォード式最高の睡眠」で掲げる「90分の黄金法則」は、睡眠不足がちな私たち日本人にとって役立つ質のいい睡眠をとるためのヒントを得られる本としてオススメします。